【花ひろ】絶品のお鮨に舌が鼓を乱打した@茨城県ひたちなか市

今日のランチはひたちなか市の『鮨処 花ひろ』へ。

鮨処 花ひろ

やぁ諸君、ごきげんよう。

ぼっちメシ研究所のジャムだ。

 

世の中には年末調整というものがあり、1月分の給料ってのはちょっとしたイロが付く。

一度は御上に召し上げられたお金が、1月の給料といっしょにちょっとばかり返ってくる。

というわけで、ちょっとした小銭が手に入った。

となれば寿司だ。それも、とびっきりに美味い寿司だ。

鮨処 花ひろに到着。

オープン時刻は11:30分のはずだが、まだ店には暖簾がかかっていない。

しばらく待っていると、店の表札に灯りがともった。

おや? ひょっとしてあの灯りが開店の合図なのかな?

おそるおそる戸を引いて中にはいる。

店内は美味しい店だけが持っている独特の雰囲気に包まれている

それに、酢飯の甘い香りがいっぱいに漂っている。その匂いだけでヨダレがでそうだ。

 

カウンターの向こうには、大柄な男。黒い帽子を目深にかぶり、マスクをしている。そしてその手には包丁。

あ、強盗だ。

それにしたって、今どき絵に描いたような強盗だ。まさに強盗のテンプレ通り。ずいぶんと古風な人なんだな。

ま、強盗中なら仕方がない。どうりで店に暖簾が掛からないわけだ。

「これじゃ、今日のお鮨ランチはお預けかぁ・・・」

そう思い、帰ろうと後ろを振り返る。

するとカウンターの男が「あっ!」っと、小さく驚きの声を上げる。

「いらっしゃいませ、何名様で?」

1人だと伝えると「申し訳ありません、すぐに開けますんで、少々お待ちになってください」とのこと。

なるほど、それはイイ提案だ。

私としても店内でグズグズしたために「現場に居合わせた目撃者」なんてことなってしまうと、あとあと面倒だ。厄介事には巻き込まれたくない。

なので提案に従って、しばらく外で待つことにした。

それから3分経つか、経たないか。

店の戸が開いて、中からまるで和の美しさを体現したかのようなお女将が出て来た。

「申し訳ございません、大変お待たせいたしました。準備ができましたので、中へどうぞ」

女将さんは気持ちのいい笑顔を浮かべ、店の中へと案内してくれた。

強盗にあっている真っ最中だというのに、なんて気丈な女性だろう。

店内の様子

カウンターは6席。当然まだ他に客はいない。

店の案内によると、カウンターとは別に個室も2部屋あるらしい。

とりあえず、いつでも逃げ出せるように、入り口から一番近い席に腰をおろす。

先ほどの男は相変わらずカウンターの向こうにいる。

「いらっしゃいませ、申し訳ございません、お待たせしちゃいまして」

そのやわらかな物腰。それに声のトーンも押し込み強盗にしてはずいぶんと落ち着いている。

ひょっとしたら、彼は強盗なんかじゃなくて、この店のご主人なのかもしれない。

とは言え、まだ油断はできない。なにせ目の前の男は、寿司職人というにはガタイが良すぎる。

それに、鮨を握るのだけのために、にあんなに太い腕なんて必要ないはずだ。

それにしても、店の中にはいい匂いが立ち込めている。

あまりにもいい匂いなのと、店内に漂っている高級感に気圧され、なんだか緊張してしまう。

さっそくメニューを拝見。

昼の握り。

なるほど、これがランチメニューか。

ランチは「握り9貫で3,500円」と「握り11貫の4,500円」の2種類。

どちらものランチも、小鉢、茶碗蒸し、カステラ風玉子焼き、お吸い物、香の物、自家製シャーベットが付いてくる。

握りが9貫か、それとも11貫かで値段が1,000円も違う。わずか2貫の違いで1,000円の差か。

正直なところランチ1食に4,500円ってのは高い。

しかし幸いなことに、今日は年末調整のキャッシュバックがポカポカと懐を心強く温めてくれている。

じゃ、せっかくだからお高い方の11貫で4,500円の方にしてみよう。

「すみませーん、コレ、11貫のランチをお願いします。」

興味本位でメニューをパラパラめくってみる。

鮨コースはすべて(要予約)。

萩(はぎ)、桔梗(ききょう)、芙蓉(ふよう)、桜(さくら)。

和を感じるナイスなネーミング。

現在は2月。

梅の花も咲き始める時期。

店内の片隅には窓があった。

店内はとくに音楽などは流れていないくて、とても静かだ。

目の前では大将がテキパキと仕事を始める。このカウンター席は、職人の仕事を間近で見ることが出来るS席。

大将は40代中ほどだろうか。私と歳が近いように見える。

お高そうな日本酒。

自転車なのでアルコールはNG。

それに昼間っから呑むってのもなんだし。

ということで、ウーロン茶を追加。

握り11貫のランチ

緑茶。

ほど良い渋み。

この後、1貫食べるごとにお茶を飲むようにした。

女将さんが目の前に皿を置く。

「はい、失礼いたします。こちらですね、取り皿でございます。前の方でお味を付けまして、そのままお召し上がりできるようなお形でお出ししております」

とても優しい口調で、ここ花ひろのシステムをご説明くださる。

へぇー、握りは味が付いて出てくるのか。つまりは醤油いらずってことだ。

大将がベストな味付けをした状態で鮨を出してくれるのね。

客は目の前に出された鮨を頬張ればOK。

そりゃ手間かからなくてっていいやね。

蓋つきの塗りの椀で運ばれてきた汁物。

慎重に蓋をもってパカっと開ける。

と、アオサが放つ強烈な磯の香りにクラクラする。

一口すすると、おお良い。これはいい。美味い。

自家製の生姜の甘酢漬け。

市販品のようなクドい甘さははなく、さっぱりと上品に仕上げられている。

ウルイのお浸し。

「はーい、失礼します、こちら茶碗蒸しですね」

いいねぇ、茶碗蒸し。

茶碗蒸しってのは、なにか宝探しのようなワクワク感がある。

小さな器の中にひろがる出汁卵の層を、小さなスプーンで掘る楽しみ。

「けっこうお熱いので、蓋をお取りしちゃいますね」

「お気を付けてお召し上がりください」

あ、蓋が付いたままの器の写真も撮りたかったな。

茶碗蒸しの薄黄色い卵の上には、木の芽が緑の彩を添えていてとても綺麗だ。

しかしそんなことはどうでもいい。蓋が開いた茶碗蒸しからは、とてつもなく良い香りが放たれる。

凄まじい香りだ。なにこれ、ナニコレ? これってハーブかなにか?

爽やかな香り。

私が驚きまくっているカウンターの向こうで、大将は静かに仕事を続けている。

トントントン・・・

この香りの正体がまったく分からない。

「あの・・・これ、すごくいい匂いがするんですけど、これは?」

ご主人は、仕事の手を止める。

「あ、それは木の芽ですね」

これって木の芽なのか?

木の芽って、うな重とかタケノコの煮物なんかに添えられているのをよく見かける。

いろどりや、雰囲気のために使う食材ってのが、木の芽のイメージ。

そういえば、近所のスーパーでも売っていた。

たかがお飾りと思っていたら、意外と値がはるので驚いたことがある。

いままでは「木の芽って、なんだか雑なネーミングだなぁ」くらいにしか思ってなかった。

そしてなにより「で、それっ結局は何の 木 なの?」と、いつもモヤモヤっとした気分にされされてきた。

そんな木の芽が、こんなにも良い香りを出すだなんて。

さらに大将が丁寧に説明をしてくれた。

「山椒の若い芽です。これから芽が出て、花が咲いて。粉にしてウナギなんかにかけるやつです」

へぇ、木の芽ってやつの正体は山椒だったのか。知らなかった。

でも、私が知っている山椒って、こんなにいい香りはしない。

「あ、茶碗蒸し」

「生湯葉が入っています。熱いんでお気をつけて」

生湯葉の茶碗蒸しか。ちょっと珍しいじゃない。

さっそくスプーンを使い、玉子の地層を探索する。

すると、お、あった、湯葉だ。

たしかに茶碗蒸しの中には湯葉が入っていた。

しかし、これは私が知っている湯葉とはだいぶ違う。

湯葉ってもっとこう、なんというか「薄い」シート状の食材だ。

しかし、スプーンが発掘した湯葉はブロック状の塊り。

こんなにカタマリ感のある湯葉ってのは初めて見た。

ウルイのお浸し。

やさしい出汁の味わいの中、ウルイの上に乗った白ゴマ。

いろいろな料理によく顔を出している白ゴマ。いつの間にか、どこかに潜んでいる白ゴマ。

みんなが大好きな人気者。

どこでもよく見かけるこの白ゴマが、意外と主張している。

このウルイも良いものなのだろうけど、それ以上に白ゴマが良いもののようだ。

クセのないネギのようなウルイに、この小さな白いゴマが、こうばしい香りのアクセントをそえている。

菜の花の塩漬け。

塩漬けといわれると、いかにも塩辛そうな味をイメージしてしまうが、実際はまったく違っている。

ほんのりと淡い塩味がベースになっていて、ところどころに後から振りかけた塩が掛かっている。

それによって、塩味の中にもちゃんと濃淡がある。

ほろ苦いツボミの部分。うーん、こりゃなんとも春っぽい逸品だ。

ちょっと大人風味で苦味が効いた早春の味。

最初の握り。

ヒラメのにぎり。

「茨城のヒラメです」とのこと。

アンコウのイメージが強い茨城県。しかし茨城県のお魚はヒラメ。

さっそく11貫ランチ開幕の握りを頂く。

むむむ、いきなり美味いじゃないか!

ヒラメの握りには、煮切り醤油のようなものは塗られていないように見える。

だからといって、塩だけの味付けってわけでもない。なんだろうこれ?

なんだか複雑な旨味が絡み合っている。

ヒラメの握りは淡泊なのにしっとり、そしてねっとり。

ヒラメの身は口の中で、まろやかな酢飯といっしょに柔らかくほどける。

ああ、これ! これはお口の中が幸せで溢れちゃうやつだ。

シンプルで、それでいて手が込んでいて、それでいて丁寧な仕事。

美味い握り。

 

思わず「これ、常磐物ってやつですよね?」と、ちょっと魚に詳しいアピールをしつつ、大将に聞いてみた。

すると大将いわく「このヒラメは日立の久慈浜で揚がったもの」だそうで。まさに茨城県の地魚ってわけだ。

ヒラメと米。

日本人なら、なんら珍しいものではない魚と米の組み合わせ。

コレが馬鹿に美味い。その珍しくもない組み合わせが実に美味い。

ヒラメが美味くって、そして米が美味い。

イカの握り。

「スミイカの握りです。黒いのはイカスミの塩です」

ほほぅ、イカスミの塩とは。なんとも小洒落たことをしなさる。

しかし、そんな小細工は私には通じない。なぜなら、こちとら生まれついてのイカ好き。たいていのイカは美味しくいただける。生粋のイカ好き。

そんな私にとって、イカには余計なトリックやハッタリは不要。

どんとこい!

うまばばばば!?

なにこれ? 美味い!

このイカの握り、美味しい。

なんだよ、これ???

イカ自体の美味さもさることながら、しかしそれだけではなく、何か深~い味がする。

でもきっとこの味この美味さは、イカスミによるものではないはず。

ぱっと見で目を引く黒いイカスミの塩は、いわゆる客寄せパンダ。デコイ。目くらまし。おそらくこの美味さの正体ではないと思われる。

しかし正体不明なナニかによる複雑な美味さ。それって何なんだろう? あぁーまったくわからない。

あまりの美味さに驚いて、カウンターの向こう側にいる大将に、率直に感想を伝える

「このイカ、凄いですね、美味いです!」

馬鹿みたいな感想。それは分かっている。分かっているのだが「美味いです!」としか言いようがない、他には伝える言葉が見つからない。

カウンターの向こうで大将は「ありがとうございます」と低く落ち着いたトーンの声で返事と、丁寧な一礼を返してきた。

アジの握り。

このアジがまた美味しい。いったいなんで? なんでアジが美味いんだ?

なにか私ような素人が知らないテクノロジーがあるってのか?

「あの、魚とかって、熟成させたりするんですか?」

思わず聞いてみる。

「そうですね、モノによってですね」

大将は相変わらず落ち着いた口調。

「この辺りは比較的海に近いですので、漁師さんにお願いして、魚が獲れたら生きているものは、そのままお店に持ってきてもらいまして、そして神経締めして、そのあと血抜きをして・・・」

大将の言葉の中に、神経締めって単語が出てきたことに驚いた。

神経締めってのは、昆布締めとか酢締めなんかのひとつ、ではなくて、まさに魚を〆る方法のこと。つまりは魚のお命を頂戴する方法の一つ。

〆た魚の中に、旨味成分イノシン酸の元となるATPという物質を、より多く残すために使われる手法。

その方法を具体的に言うと、脳と脊髄を素早く破壊して〆る。

神経締めをするためには、それ専用の道具が必要となる。

サヨリの握り。

私が神経締めについて、初めて知ったのは、とある釣り人のブログだった。

それゆえ、神経締めという技術は、釣人たちの世界の話であって、料理の世界には無縁な話だと思い込んでいた。

だから大将の口から「神経締め」って単語が出て来たことに驚いた。

ひょっとして、鮨や刺身を出す飲食店では、神経締めを知っていて当たり前の事なのか?

花ひろの大将いわく、魚を熟成させて旨味を引き出すには「神経締め」ってのが絶対条件らしい。

神経締めによってATPがたっぷりと残っている魚だからこそ、熟成に時間をかけることで、ATPは旨味成分のイノシン酸へと変化する。だから熟成させた魚は美味い寿司ネタになる。

アオヤギ。

いわゆるバカ貝。

ずーとバカだバカだと呼ばれてきた、なんとも気の毒な貝。

実は高級な鮨ネタなのだが、江戸の頃に「バカって名前の貝を客に出すのってどーよ?」的なことがあったらしく、この貝が集積される「青柳」にちなんでアオヤギと呼ばれるようになったんだとか。

ラオウが天に向けて突き出した拳のように、ピンッと立った斧足(ふそく)がなんだかカッチョイイ。バカのくせに。

バカ貝は外敵に襲われると、この筋肉が発達した斧足を使い「ジャンプ」しながら敵から逃げる。

なるほど、ラオウだけにジャンプってわけか。

白子の軍艦巻き。

白子が軍艦に乗って攻めて来た。

いやいや待ってくれ、白子と言ったらポン酢でしょ?

しかし、そんなつまらない固定観念や思い込みは、この戦艦の速射砲によって跡形もなく粉々に打ち砕かれる。

舌の上には濃厚な白子の旨味が攻め込んでくる。暴力的なまでに。

この白子軍艦の前に、抵抗はまったく無意味だ。

口の中は、あっという間に白子軍の制圧下におかれる。

無条件降伏。

これ、美味い。

さて、ここで寿司ネタの熟成についてのお話に戻る。

大将がおっしゃるには「おろした魚に塩を振って脱水しまして、それからヒョウオンで何日か寝かせます。先ほどのアジで4日ほど・・・」

ちょっと待ってくれ。ヒョウオン? なんだそれ? ヒョウオンってのは聞きなれない単語だ。

もしかしてプロ専用の道具か何かなのか?

さっそく大将にヒョウオンなるものについて聞いてみる。と、ヒョウオンとは氷温。つまり0度以下の温度のことで、0度~マイナス2度くらいの温度のことだという。魚はそんな低温で熟成させるのがいいらしい。

「それって、家庭の冷蔵庫を使ってもできます?」

興味本位で聞いてみた。

「チルド室がある冷蔵庫をお持ちであれば・・・ギリギリ、出来るかな・・・とは思います」

と、丁寧に説明して頂いたのだが、しかし残念なことに、我が家の冷蔵庫にはチルド室なんてものはない。

トロの握り。

言うまでもなく、美味い。

魚は何でも熟成させれば、より美味しくなるというものでもない。そんなに単純な話ではない。

魚は熟成によって旨味は増すが、その代償として食感が損なわれてしまうのだ。

旨味と食感はトレードオフの関係。あちらを立てれば、こちらが立たず。なんとも歯がゆい。

このトロの握りはどうだろう。寝かせたのだろうか?

ギュッっとした歯ごたえ。良くしまった身は明らかに歯ごたえを優先している仕上がり。

このマグロ、たぶん熟成させても、させなくても、きっと美味しいマグロに違いない。

ようするに魚自体が美味い。

そう考えると、なんだかトロってズルい。チートだな。

コハダの握り。

江戸前寿司には欠かすことができないコハダ。

小さいほど高価になるというからちょっと変わってる。

てか、ここ花ひろって江戸前寿司のお店だったのか? それとも単にコハダの握りを出しただけなのか?

ま、そんなことはどうでもいい。

だってこれ、美味いんだもの。

バフンウニの握り。

バカ貝の「バカ」には気を使って「アオヤギ」なんて、いかにも余所行きの名前を付けて呼ぶのに、なぜか野放しのままとなっているバフン(馬糞)ウニ。

当たりまえのように生ウニで、当まえじゃないのが、軍艦じゃないってところ。こんなの初めて見た。

親指ほどの大きさの生ウニの握り。口の中に放り込んだ瞬間、至福の時が訪れる。ああ今、私は神に祝福されている。鮨の神による福音。

海苔が無いせいで、よりダイレクトに、よりストレートにウニの風味を味わえる。

このバフン、べらぼうに美味いぞ。

海って、こんなに美味しいものが住んでいるのかぁ。

なんか海って、海ってスゲーんだなぁ・・・

最後の握りはアナゴ。

身がふっくらとしている。身が柔らかいのではなくて、あくまでふっくら。

身が「柔らかい」ってのは、薄いアナゴでも感じることができる食感だけど、ふっくらという食感は、アナゴの身に「厚み」がないと感じることができない。

だからこの身の厚いアナゴの握りは、あくまで「ふっくら」。

これまで頂いた握りとは違って、はっきりと煮切り醤油が存在感をアピールしている。なんとも素晴らしい照り。

美味い。

巻き物。

手元のメモには「ホッキ貝の干物と姫キュウリ」と書かれていたのだが、冷静に考えると「ホッキ貝の干物」ってのは間違いだろう。

おそらく「ホッキ貝のヒモと、姫キュウリ」が正しいはず。

ホッキ貝のコリコリした歯ごたえと、姫キュウリのシャキシャキした歯ごたえ。それに海苔がまとった海の香り。そして米の甘み。

これも美味い。

カステラ風の玉子焼き。

これ、カステラではダメなのか?

卵の良いところを引き出すってことよりも、玉子焼きをいかにカステラに似せるかってことに力を入れ過ぎている気がする。

でも、美味しい。

この甘い玉子焼きにが、口の中をいつもの日常に戻してくれる。

デカイ寿司桶。

あんなに大きな寿司桶いっぱいに鮨が入っていたら、さぞや壮観なことだろう。しかも桶を埋め尽くすのは、花ひろの鮨。うーん想像するにたまらない。悶絶しそうだ。

 

さてさて、ランチメニューの11貫と巻物を完食。

食べる前は11貫では少ないかな、と思っていたのだが、握りの一つ一つをよく味わって食べたので、かなり満足感が高い。

きっと男性でも十分なボリュームだろう。女性だった9貫のランチでもいいかも知れない。

追加の握り

さて、とは言えもうちょっと美味しいお鮨をいただきたい。

普段はなかなか来ることができない美味しいお店にせっかく来ているのだから、追加で何か握ってもらおう。

「あの、すみません、あと2つ3つ握ってもらえますか?」

メニューとは別に、仕入れた魚介類とその産地の書かれた紙が張り出されている。めっちゃ字が上手い。結構な達筆だ。

値段が書かれていない。そのことに軽く戦慄を覚える。

これというものを決めかねる。うかつに高級なネタを頼めば、予算を簡単にオーバーしそうだ。

いや正確には、追加を決めた時点ですでに予算はオーバーしている。

迷いに迷う。

「何かおすすめがあれば、それでお願いします」

すると大将「何か、食べられなかったり、苦手なものはございますか?」

とお尋ねくださる。

「そうですねぇ、油粘土とか、亀の子タワシとかは食べられないと思います」

いや、さすがにそんなことは言わなかった。

「なんでも大丈夫です!」

「あ、イカ! イカをもう一度ください!」

お仕事の道具。

美味しい魔法が詰まっている小さな2つの壺には刷毛が付いている。

そのとなりにはスダチも見える。

花ひろの大将は、物静かで、とても落ち着いた態度でいる。

だから、もしかしたらぱっと見では職人気質のコワそうな人に見えるかもしれない。だがその実、とても愛想がよく親切な人だ。

自分からはペラペラと話すようなタイプではないが、こちらから何か話をふったりすると、丁寧に応じてくれる。

 

ここ何ヶ月か、魚をおろす包丁が欲しいな、と思いつつも、なかなか購入には踏み切れずにいた。

なので包丁について大将に聞いてみたところ、親切にいろいろ教えてくれた。

「ぜひ、ご購入なさってみてください」と、ご自身がお店で使っている出刃包丁を見せてくれた。

差し出された出刃包丁が、ギラリと鈍い光を放つ。

なんともサマになっている。

初対面の強盗ルックでも包丁が似合う人だったが、こうして寿司職人の格好をしていると、さらに包丁が良く似合う人だ。

イカの握り。

リクエスト通りに握られた本日2回目のイカ。

この握りを食べて、やっと初めてこのイカの握りがまとっている梅の香りに気が付いた。

このまろやかにカドが落ちた酸味は、酢ではなくって、の酸味だ。

それにしたって、いったい何だってイカに梅を合わせようと思ったの?

梅の季節だからなのか?

なんにせよ、イカと梅。これバツグンに美味い組み合わせ。

たかだかイカの握り一つに、なんだってこんな細かくって、面倒くさい仕事をしてんだ?

しかもこの握り、梅だけではない。もっと他の何かが存在している。

味覚、視覚、嗅覚では、とらえることが出来ないほどの、微細な何か。それが何なのかさっぱり分からない。

知覚できないほどの何かが、この白い握りに複雑な美味さと、海の香りを添えている。

ああやっぱりこのイカの握り、めちゃくちゃ美味い。

「お次はハマグリなんて、いかがでしょうか?」

そりゃ食べてみたい。

「お願いします」

ハマグリの握り。

待つことしばし。料理を待つ間ってのも、案外と楽しいものだ。

そうしてハマグリが出て来た。なんと出汁に浸かっている。

「お茶漬けのようにしてお召し上がりください。」

えぇ?

出汁が効いたお汁は甘い。砂糖か、ハチミツか。

煮ハマグリなのか、ここに来て変化をつけて来た。

ハマグリも今頃が旬の食材。

「こちらはサービスです」と、出されたイカゲソの握り。

どうやら大将に「イカ好き」な客であることを見抜かれたらしい。

それにしてもこんな立派な握りがサービスってのはなんだか申し訳ない。

で、こちらのゲソの握り、先ほどのスミイカの握りの繊細さとは対照的なワイルドさ。

イカの旨味と、ゲソのコリコリとした歯触り。

ほほぅ、大将、分かってんな、イカのこと。

なかなかヤルじゃないか。

もちろんこのゲソの握りにも、花ひろの味付けが施されている。美味い。

額の中には「一期一会」の文字。

いい言葉だ。

 

「今日は鹿児島から天然ものの車海老が入ってきてまして・・・多少お値段は張りますが、よろしければ、いかがでしょうか?」

そういえば、ここまでの流れで海老の握りを食べていないな。

鮨といったら、どうしたって海老の握りは必要不可欠じゃないか。

とはいえ車海老、それも天然モノといえば、安く済むわけがない。後の支払いがちょっと怖い気もする。

しかい、この大将が提案してくれている「おすすめ」の車海老だ。少しくらい値が張ったとしても、是非食べてみたい。

大将が「ボイルがおすすめです」と付け加える。

あ、あ、じゃ、それ、それでお願いします。

いつも食事に伺ったお店では、そこで頂いたお料理の感想なんかを、スマホのメモに書いている。

マナーも、それに行儀も悪いことは百も承知だが、でも忘れないようにメモをとることにしている。

いつものように、うつむいてメモを書いていると大将が急に「お写真、どうでしょうか?」と言って来た。

え、写真?

うつむいた顔を上げると、銀色に輝くトレーが目の前に差し出されていた。

そのトレーの上には、思わずホレボレするような立派な海老。

これか? 写真って、この海老の写真を撮れってコトなのか?

それじゃ是非にと、カメラのレンズを近づけると大将が「あ、エビが暴れるかもしれませんので、お気をつけて!」

はあ? 海老が暴れる?

あらためてカメラのレンズ越しにトレーに乗っている海老を見る。

あ! この海老、動いている! まだ生きてんじゃん!

海老は両の手にもった、必殺のハサミをウニウニと動かして、銀のトレーをぼーっと眺める私を威嚇している。

その驚きと感動を伝えたくって、必死にシャッターを押しまくったのだが、よく考えてみると所詮は写真。

どんなに頑張ってシャッターを切ったとしても目の前で「ワニワニ」と動くハサミのライブ感を写真では伝えることが出来ない。

そして、待つことしばし。

・・・パチッ・・・パチッ・・・

大将は茹で上がった車海老の殻を、丁寧に剥いている。

・・・パチッ・・・パチッ・・・

その音がするたびに、たまらなく美味そうな海老の香りが鼻先へと漂ってくる。

目の前に出された一貫の車海老の握り。

デカイ! なにこれ?

車海老はシャリの上で文字通り背筋をピンッと伸ばしている。

決してシャリの上にだらしなく横たわるのではなく、巨大な傘をさしたかのようにビンビンと身を張って、シャリをすっぽりと覆っている。

見るからにギチギチに詰まった身。

発達した肉の繊維が幾層にも幾層にも重なっていて、まるで鎧のような質感

ああ、この車海老の握り、その姿はまるで、赤い甲冑をまとった武者。これぞ武士(もののふ)ってやつだ。

カッコイイ。

こんなにカッコイイ鮨なんて見たことがない。

それにそうだ、赤い甲冑の武士といえば、甲斐武田の軍隊。

選り抜きの精鋭部隊だけが身にまとう事が許される武勇の誉れ、そのシンボルこそが赤い甲冑、赤備え。

そういえば数か月前、国道50号線をクルマで走っている時に、赤備えのコスプレ姿でキックボードに乗って走る青年をみた。

その背にはためく幟には「キックボードで日本一周中」の文字。

「へぇぇ、キックボードで日本一周? なんかヘンなやつ」と思い、強烈に印象に残った。

だが、今はそんなコトを思い出している時ではない。

それにしたってこの巨大な車海老の握り。いったいどうやって食べたらいいのだろう?

身とシャリを分けてしまっては、握ってくれた大将に申し訳ない。

前後半分に切り分けるってのも、なにか無粋な話だ。

ならば、おもいきって一口でいってやろう。

この車海老の握りを一気に口の中へと放り込む。

高密度に濃縮されてた海老の身に、前歯が通ってその赤い甲冑を分断する。

奥歯の方でぐっと噛みしめると、海老の細胞一つ一つから旨味が弾け飛ぶ。

うーん、強烈。

海老と言えば、まるで枕詞のように決まって付いてくる形容詞は「プリプリ」の海老。

しかし、この海老はプリプリしていない。

この食感はビッチビチだ。

こりゃなんとも言葉がない。

美味い!

この場面、ここは例え一言でも、この鮨を握ってくれた大将に、感想を伝えるべきところ。

だがしかし、言葉がでない。

つい無言で車海老の余韻に浸ってしまう。

海老の美味さに、言葉がまったく追い付かない。

この車海老、遠く離れた鹿児島の厳しい自然のなかで、今日のこの日まで生きてくれた。

そして今日、最高の寿司ネタとして私の前に来てくれた。

これはまさに一期一会。

車海老殿、そのお命はしっかりと頂きました。

興奮が落ち着いて、やっと「美味しかった」と感想を伝えることができた。

「ありがとうございます」と、相変わらず静かなトーンで礼を返す大将。

さて、鮨屋でグズグズしていても恰好が悪い。

食事が済んだのだから、さっさと会計を済ませて店を出よう。

「デザートとコーヒーです」

ああ、そうだった、すっかりデザートのことを忘れていた。

一旦立ちかけた腰を再び降ろす。なんだかカッチョわる。

目の前にはイチゴのシャーベット。

寿司屋でシャーベットとは変わってるな。

それにしたってイチゴか、これまた早春にふさわしい果物。季節ごとに旬の食材を出してくれる和食って、やっぱイイなぁ。

さっそくスプーンですくって口の中へ。

ぐはっ!美味い。なんだこれ?

イチゴよりもずっとイチゴの味がする。

もしかしてイチゴって、シャーベットにすることで、初めて完全体になる果物なんじゃないのか?

さっそく大将に質問だ。

なんでこのシャーベットは美味しいの?

大将によると、2リットル分のシャーベットを作るために、8パック分のイチゴを使っているという。

2リットルといえば大型ペットボトルのサイズ。それにイチゴ8パック。

そりゃまたずいぶんとイチゴを使うんだな。

このイチゴのシャーベットがお店に出せるようにレベルに仕上げるまでに、試行錯誤、創意工夫のアレコレ大変だったそうだ。

うん、美味い。

もしかして、壁に飾られている額に入った「一期一会」に掛けてイチゴなのか?

いや、そんなことはないはずだ。たぶん。

最後にコーヒーを頂く。

ガタイのいい大将が握る小さな鮨は、どれもこれも繊細な職人の仕事が施され、美味かった。

美味い鮨を、ぞんぶんに堪能させてもらった。

会計をして大将と女将にお礼を伝え、店を出た。女将は店の外までお見送りに出てくれた。これは恐縮。

帰り際、女将に「また伺います」と伝えたが、次にこの店へとこれるのはいつの日になるのか。

がんばってお小遣いを貯めることにしよう。

人というのものは、大金を払ってまで食べた料理をマズイとは認めたくない。

それを認めてしまったら、大損したことを認めることになってしまう。

だから、大金はらって食べた食事は「美味しいはず」であり「不味いわけがない」と判断する。そういう心理がどうしても働く。

誰だって行列に並んでまで食べたラーメンが「不味い」とは認めたくはないものだ。

それゆえに「あそこのラーメンは美味かった」とか「並ぶ価値があった」と自分を騙してしまう。

では、花ひろで食べた11貫+αで4,500円のランチ。さて、このランチはどうだったのだろうか? 本当に美味かったのか?

先に書いた通り、高い金を払ってまで食べた食事は「美味い」と判断してしまいがち。

そんな心理になることを踏まえて考えてみても、やはり、花ひろの鮨は美味い。

その対価を支払うだけの美味さ、価値が十分にあると思う。

『鮨処 花ひろ』のお隣は『京遊膳 花みやこ』お花つながり。

鮨処 花ひろの基本情報

花ひろの場所はこちら

JR常磐線勝田駅の東口を出て2.3km。歩きで30分ほど。

駐車場は最大5台。

ひたち海浜公園の帰りにでもお立ち寄り頂ければこれ幸い。

鮨処 花ひろの基本データ

※ お子様づれのお客様はお断りする場合がございますので、予めご了承くださいますよう、お願い申し上げます。

 花ひろの基本情報 

 住  所 

 〒312-0018 茨城県ひたちなか市笹野町3丁目14−29

 電  話 

 029-276-1075

 営業時間 

 11時30分~14時00分

 17時30分~22時00分

 定 休 日 

 不定休

 公式HP

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花ひろのメニュー

※ 価格は2020年02月のもの。

 花ひろのメニュー 

 昼の握り 

 9貫 小鉢、茶碗蒸し、カステラ風玉子焼き、お吸い物、香の物、自家製シャーベット
    3,500円

 11貫 小鉢、茶碗蒸し、カステラ風玉子焼き、お吸い物、香の物、自家製シャーベット
    4,500円

 昼のコース(4名様以上 要予約) 

    5,000円

 夜の握り 

 芍薬(シャクヤク)8貫
    3,000円

 牡丹(ボタン)10貫
    4,000円

 百合(ユリ)12貫
    5,000円

 おまかせ握り
    8,500円

 おまかせ鮨コース(要予約) 

 萩(ハギ)
    8,000円

 桔梗(キキョウ)
   10,000円

 芙蓉(フヨウ)
   12,000円

 桜(サクラ)
   15,000円

 巻き物 

 かっぱ巻
      400円

 おしんこ巻
      400円

 梅しそ巻
      400円

 干瓢巻
      400円

 ひもきゅう巻
      500円

 穴きゅう巻
    1,000円

 鉄火巻
      900円

 トロたく巻
    1,200円

 

日本酒も充実。