【山形屋】大内宿の高遠そば@福島県下郷町

やあ諸君、ごきげんよう。

ぼっちメシ研究所のjamだ。

 

今日は大内宿へとやって来た。目指すはここ大内宿の名物の高遠そばだ。

そのレポートをお届けする。

大内宿と高遠そば

大内宿は、江戸時代に会津若松と日光を結ぶ街道で栄えた宿場町。

1本のメインストリートが通っていて、その両脇に古式ゆかしい茅葺屋根の民家が軒を連ね、古き良き日本の風景を今に伝える。

この大内宿の名物は、何と言っても高遠そば。

蕎麦は一本のネギとともに供される。その一本ネギを箸替わりに使いつつ、薬味としても齧りながら蕎麦を頂くという。

まさに蕎麦界のトリックスター、それが大内宿の高頭そば。

いったい、なんだってそんな斬新で、画期的で、はた迷惑な食べ方を発明したのだろうか。そしてなんだってこの地に根付いちゃったのか。

とにかく気になる高遠そば、さっそく頂こうじゃないか。

大内宿の駐車場

この大内宿にアクセスするための主要なルートは2しかない。

どちらも細い道だ。そのため行楽シーズンともなると馬鹿馬鹿しいほどの渋滞ができあがる。

大きな駐車場が完備されてはいるものの、やはり行楽シーズンにはキャパ不足で、渋滞の列を延ばすのに一役買ってくれる。

駐車場は、大内宿の街道に近いほど料金が高くなるシステムのようだ。

私が大内宿を訪ねたこの日は観光客は比較的に少なかった。そのため、駐車場の係員に誘導されるまま、街道近くの割高な駐車場(400円)に停めてしまった。

山形屋の街道そば

駐車場に車を停めて周りをみると「近道」の案内が出ていて、その案内が指し示す方に向かって何人かの人が歩いて行くのが見える。

ついて行ってみよう。

観光客で賑わう街道。

ぱっと見では分からないが、中国からのお客さんがかなり多い。

近道によって、たしかにすぐに街道に合流できた。が、なんだか中途半端な場所に出てしまった。

あらかじめ決めていたのは「お昼時の混雑時は避けよう」くらいのもので、どこの店にするかは決めていない。

私はインスピレーションとか、初期衝動を大切にするタイプ。

美味い蕎麦屋をさがして、適当に街道をぶらぶらと歩く。

 

大内宿にはたくさんの蕎麦屋がある。

というか、だいたいどの家でも蕎麦を出している。

大内宿のメインストリートに連なる多くの民家では、通りに面した側の軒先でお土産を売り、座敷の方で蕎麦屋を営んでいる。

ぶらぶらと歩きながら、多くの蕎麦屋の中からなんだかよさげな店を見つけた。

看板には「山形屋」とある。何よりも「新そば」の文字が私の心をとらえた。

長くぼっちメシを続けていると、店の良し悪しは外見からなんとなく分かるようになってくる。この店から美味いオーラを感じる。

ぼっちには分かるのだ。ここは当たりの蕎麦屋だ。

茅葺の屋根の先にぶら下がるそば処山形屋の提灯。

どの店も、戸を全開にしているので、中の様子や込み具合を店の外からでもうかがえる。

個人経営の店にありがちな「中の様子が見えないから入りにくい・・・」なんてコトとはまるで無縁。

大内宿の蕎麦屋はどこも、ファミレスのような安心感と開放感がある。

入り口を案内する笠に従う。

正面の方へとまわり玄関口に立つ。

店は入り口で靴を脱いで座敷に上がるシステム。玄関にはスノコが敷いてある。

茅葺の屋根をくぐると、すぐに店員さんが対応してくれた。

しかし、すでに玄関のスノコの回りにはたくさんの靴が並び、私の靴を置くためのスペースがなさそうだ。

ふと見ると、正面には靴棚があり、靴はここに入れるように、と書かれている。

だがほとんどの客は靴棚を使わずに、みな玄関のスノコに沿うように並べてる。

スノコに乗って靴を脱ぎ、ぼっちらしくガラガラの靴棚の端に靴を入れた。

やはり私が感じたインスピレーションは間違っていなかった。この店は大当たりだ。

なんせ座敷に上がったすぐそこのテーブルには、若い女性客が5人も居るじゃないか。

 

5人組の女性客は、そのなかの1人を除き、みながしきりに店内をスマホで撮影している。

座敷のさらに奥にも空いた席があるが、けっこう混んでいるようだ。

5人組のそのすぐ脇の長いテーブルには誰もいない。

よし、ここに座ろう。なにしろ女子の近くだ、ここには華がある

すぐによく冷えた麦茶が運ばれてきた。

テーブルが分厚い一枚板でできている。

高そうだ。

オーダーはもちろん、大内宿の名物、高遠そば。これを食べに来たんだ。

ネギを箸の替わりにして食べる、例の迷惑な蕎麦だ。

この山形屋では街道おろしそば(ねぎそば)という名前で出している。

それと会津地方の名物であるニシンの山椒漬け。そしてこれまた名物の饅頭の天ぷらをオーダー。

ちょっと欲張った感もなくはないが、一年に一度の会津・裏磐梯旅行だ、これくらいの贅沢も許されるだろう。

注文を取りにきたおばあちゃんに、私のオーダーを伝える。

「あれぇ、まんじゅうは、1つけぇ?」

と尋ねられたので

「あ、あぁ、じゃ2つ、2つお願いします」

と、思わぬおばあちゃんからのプレッシャーの前に、あっさりと屈する。

「あんらぁ、なんだか わんりぃ ねぇ・・・」

と申し訳なさそうなおばあちゃん。

「いえいえ、そんなぜんぜん平気ですよ、おばあちゃん」

私は大のおばあちゃんっ子なのだ。おばあちゃんには逆らえない。

 

こちらのお店のホールスタッフは、何人かのおばあちゃんと、あと一人だけ若い女性が担当している。

おばあちゃん達はもとより、若い女性店員さんもかなりきつ目の会津弁をお使いになる。

もしかしたら観光客向けの演出を多少は含んでいるのかもしれない。

このおばあちゃんたちが、観光客に対して最高のパフォーマンスを発揮している。

まるで画に描いたような、理想的な田舎のおばあちゃん。頭に手ぬぐいを巻き、もんぺ姿。

囲炉裏端にひざを折って座り込み、背を丸めて囲炉裏に覆いかぶさるような姿勢。そして手をパタパタさせて、串に刺した岩魚(いわな)を煽っている。

純日本人の私ですら見たことがないような、お手本のような田舎のおばあちゃん。田舎の量産型おばあちゃん。

 

隣のテーブルの女の子5人組は、北京語か広東語か分からないが、とにかく中国語で盛り上がっている。

お歳は20代半ばくらい。皆がみなお綺麗だ。

こういう子たちをクーニャン(姑娘)っていうのかな。なんて思った。

 

5人の中の1人は日本語に通じているらしく、会津訛りの強いおばあちゃんと4人のクーニャン達の間にはいり、通訳の役割を担っているようだった。

おばあちゃんが娘さんに尋ねる「中国から来たのかい?」。

その問いかけに通訳は首を横に振って「台北」と短く答え、すぐ「台湾」と付け足した。

 

5人は、おばあちゃんをぐるりと囲んで熱心にカメラのシャッターを切ってはしゃいでいる。

まるでタレントか政治家の囲み取材のようだ。そして記者に囲まれたおばあちゃんの方も、まんざらでもないご様子。

私が萌えに萌えて、身もだえていると、饅頭の天ぷらとニシンの山椒漬けが運ばれてきた。

これが饅頭の天ぷら。

そのまま食べてみると、旨い。小豆と油の相性はとてもいい。パリッと揚がった饅頭に熱々の餡子。

イメージとしては、あんまんや、小豆&マーガリンのコッペパンのようなものだ。

まんじゅうを割ってみると餡がぎっしり。

トッポも裸足で逃げだすレベルのぎっしり感。

この饅頭の天ぷらは、変わり種のスイーツのようにみえるだろうが、この地方では大真面目なおかず。あくまで饅頭の天ぷらはおかずの一品なのだ。

だから醤油をかけて頂くのが本来の姿。せっかくなんで、饅頭の天ぷらに醤油を垂らしてみた。

醤油の塩気によって、小豆の餡のもつ甘さの輪郭がはっきりする。

うーん、おかずには向かない気がする。でもまあ、それはそれで良しだ。

ニシンの身と山椒の葉を交互に重ね、酢と醤油のタレで漬け込んだもの。

この地方のスーパーに行けば、大抵はどこでも手に入る。

 

海岸から遠く離れた内陸地の会津でニシンが名物になったのには理由がある。

冷蔵庫なんてなかった時代。北海道で大量に獲れるニシンは乾物に加工され、海を渡って新潟まで運ばれてきた。

新潟港に届いたニシンは、新潟の行商人の足によって会津まで運ばれてきて、会津の人々は厳しい冬を乗り越えるための保存食として、そのニシンを大量に買い込んだ。

日持ちするように乾物に加工されたニシンだったが、それでも魚の生臭さが残っていたらしい。

その生臭さ何とかしようと工夫をこらした結果、このニシンの山椒漬けが生まれた。

ばっちり山椒がのっている。

ニシンの身は締まっていて、噛むとじゅわっとニシンの旨味、つけ汁の酸味、そして山椒の香りが口の中に広がる。

かなり山椒が効いている。今まで食べて来たニシンの山椒付けのなかで、一番うまい。

5人組のクーニャンたちにも、この美味しさを分けてあげたいが、見知らぬ旅先で、見知らぬ男から魚の切り身をすすめられるってのも、さぞかし困るシチュエーションだろう。

ここは自粛する。

店内の様子。

この左側にも同じようなテーブルがあり、5人組のクーニャンが楽しそうにしている。

店の外にもテーブルがあった。

高遠そばが届いた。

ばっちりイメージ通りにネギが一本添えられている。

さっそく頂く。

実際に食べるまでは、何か食べやすいような工夫がこらしてあるのだろうと思っていた。しかし、そんなものは無かった。

見たまんまだ。

まんまツルツルのネギに、ツルツルのそば。

ネギで蕎麦をすくいあげると、蕎麦はいとも簡単に重力に引っ張られ、もとの丼のなかへと素直に戻っていく。

ごく当然の成り行き。

こんなの無理だろ?

いったい何の罰ゲームなんだコレ?

 

しかし、この罰ゲーム的な食べ方をする蕎麦は、カップルやファミリーには良い思い出になると思う。

この際だ、せっかくなので、ぼっちも存分に思い出作りをさせて頂く。

すくえども、すくえども、悲しくなるくらいに蕎麦は口に入らない。

結局は椀に口を付け、ネギで蕎麦を流し込むようにして頂いた。

何時ものようにゾゾーっと蕎麦を啜っていると、急に5人のクーニャン達のことを思い出し、ヌーハラ=ヌードル・ハラスメントなんて単語が頭をよぎる。

実際、彼女たちは音を立てずに蕎麦を食べていた。

それにしてもここの蕎麦、美味い。そのトリッキーな見た目に反して。

ちゃんと蕎麦それ自体が美味い。この香りには驚く。お世辞など抜きに美味い蕎麦。

なんせ新蕎麦だ。

このネギは箸としても使うのだが、本来の本来の薬味としての役割もある。

ネギを丸かじりするなんて体験はもちろん初めてだが、意外とイケる。

事前に調べたネットの情報では「辛い」ということだった。

「そりゃそうだろ」なんて思っていたのだが、このネギは全然辛くない。

採りたてのネギなのだろうか?

新玉ねぎのようなみずみずしさ。

美味い蕎麦。

後に知ったのだが、福島県は蕎麦の生産量で全国第4位。

「会津のかおり」というブランド蕎麦があるそうだ。

我が茨城県の数少ない自慢のタネである蕎麦。だから蕎麦だけは他県に負けたくないのだが・・・

囲炉裏。

すごく良い炭を使っている。

クーニャンたちはずっと、囲炉裏のまわりではしゃいでいた。

囲炉裏の上には、岩魚がつるされていた。

箸もちゃんと備え付けられている。

ポットと湯呑も備え付けられているが、これを勝手に飲んで「高菜、食べちゃったんですか」的な展開になることを恐れ、手が出なかった。

会計を済まして店を出て、山形屋が街道に面したお土産売り場に回る。ここ山形屋のはお煎餅が有名な店のようだ。

リアルおばあちゃんのぽたぽた焼き。

店先のおばあちゃんにたのんで、おすすめのところを幾つか見繕ってもらう。

山形屋の場所はここ

大内宿の街道沿いの様子