茨城県が、他の都道府県に誇れる数少ない自慢のひとつが、常陸秋そば(ひたちあきそば)。
全国の蕎麦屋そして蕎麦通のあいだで、非常に高い評価を受けている。
その生まれ故郷がかつての金砂郷町。現在の常陸太田市(ひたちおおたし)だ。
やぁ諸君、ごきげんよう。
ぼっちメシ研究所のジャムだ。
いい友
季節が冬の入り口にさしかかるころ、街の蕎麦屋には新蕎麦が出回りはじめる。
日本中の蕎麦好きたちが、もっとも楽しみにしている季節の到来。
この時期になると、蕎麦が大好きな常陸太田市の住民たちは、いっせいに蕎麦屋へと殺到し、蕎麦屋の人口密度を飛躍的に跳ね上げる。
彼らの蕎麦屋を見る目はとても厳しく、それゆえ「美味い蕎麦屋」を見抜く能力に長けている。
そんな常陸太田市民たちのお眼鏡にかなった蕎麦屋が、今回ご紹介する『いい友』。
それじゃ、さっそくウキウキ・ウォッチに行ってみよう。
外観
秋晴れの空の下、いい友を目指してクルマを走らせる。
開店時刻ぴったりにお店に到着。
しかし、すでに駐車場はいっぱい。
かろうじて空いているスペースにクルマを停める。
店内をのぞくと、すでに満席に近い。
人気のお店だとは聞いていたけれども、まさかここほどとは。
新蕎麦のお知らせ。
この店は自家製の蕎麦を使っていて、他の店よりも一足早く新蕎麦を楽しめる。
店内
左手側には6人掛けのテーブルがあり、その向こう側は座敷になっている。
座敷は満員で、とても写真を撮ることなんてできない。
備え付けのポットから、熱いそば茶をいただく。
三品とマコモタケの天ぷら
メニューを見て、まず驚いたのが値段。
マックスでも1,000円という低めの価格に抑えられている。
高価な常陸秋そばが、この値段でいただけるとは。
おそらく、海老天や鶏肉、豚肉などを使ったメニューが無いことも、値段を抑えるのにひと役買っているのかもしれない。
にしても安い。
いろいろ迷ったあげく、三品(さんぴん)1,000円を大盛り(プラス300円)で注文することに決めた。
ついでに気になったのが、こちらの「季節限定 マコモタケの天ぷら」
どうも限定という言葉に弱い。
10分ほど待つと、マコモタケの天ぷらが運ばれてきた。
添えられた塩を振って食べると、ホクホクして驚くほど甘みが強い。
その食感は、ものすごく柔らかいゴボウってな感じ。
油と塩と甘みの、見事なコンビネーションに、箸が止まらない。
本当は蕎麦が出て来るまでは少し残しておこうと思っていたのだが、無念。ぜんぶ食べちまった。
ところで、このマコモタケってのは、いったい何なのだろう?
その答えはちゃんとメニューに書かれている。
その説明を要約すると「トウモロコシやサトウキビと同じイネ科の植物」なんだそうで、中国料理では高級食材として使われるんだとか。
なるへそ。
マコモダケの天ぷらを食べ終わると、三品が運ばれてきた。
配膳をしてくれた女性スタッフさんから「食べ終わった割り箸は、袋に戻してください」と伝えられる。
使い終わった箸は袋に戻して、袋の端を折ることがマナーであることを一応は知っていた。
しかし、お店側から要求されたのは初めてだったので、ちょっとびっくりする。
なんでだろう?
ひょっとして新型コロナウイルスの対策なのか?
蕎麦と同時に蕎麦湯が運ばれてくる。
新蕎麦らしいほんのりと薄緑色の蕎麦。
蕎麦は山のような大盛り。
三品その1。
大根おろし。
三品その2。
とろろ。
三品その3。
納豆。
薬味はネギとワサビ。
つけ汁はさっぱり系。
かつお節のいい香り。
蕎麦が上品なのでちょっと意外だった。
なぜだか「田舎蕎麦のような武骨な太打ち蕎麦」を勝手に想像していた。
均等に切り分けられた蕎麦から、丁寧な仕事ぶりが伺える。
まずは基本のつけ汁でいただく。
やや固めに茹で上げた蕎麦はツルツルと滑らか。
ひと噛みすると、新蕎麦らしい豊かな香りがいっぱいに広がる。
個人的にはもっと粗くザラっとした蕎麦が好みだけれども、文句なしに美味い。
この写真では、蕎麦を猪口のなかにとっぷりと浸けているが、半分くらい浸けるのがいいかも。
つけ汁はライトな仕上がりなので、たっぷり浸けても美味しい。
大根おろし。
言うまでもなく蕎麦と相性がバツグン。
辛味の少ない部分が使われている。
なめ茸は市販品のようで、ちょっとばかし酸味が強い。
なんなら、なめ茸は無くてもいいかも。
納豆をいただく。
小粒で知られる水戸納豆だが、ここまで小粒な納豆って初めて食べた。
それはそうと、せっかくの新蕎麦に匂いの強い納豆を合わせるなんてどうなのよ? なんて考えが頭をよぎる。
ところがどっこい、新蕎麦は、納豆に負けないくらいの強い香り。
がっぷりと四つに組み合って、一歩も引かない。
まったく力負けしていない。
天晴れ、常陸秋そば。
三品のなかで、圧倒的に美味しかったのは、とろろ。
そういえば山芋も、晩秋から冬にかけてが旬だっけ。
それゆえか、香りが良く、そして力強い。
いや、それにしたって山芋と蕎麦ってこんなに合うもんなのかね。
山芋と蕎麦、どちらも山のものだから相性がいいのかもしれない。
薬味のワサビにも手抜きなし。
1,000円で本ワサビとは驚き。
ネギは小口切りではなく、粗くみじん切りにしてあって、これがまたすっげーパンチ力。
ネギ、めちゃくちゃカライ。
こりゃ、ホントにちょっぴりと乗せるだけで十分だ。
蕎麦の量がすんごい。
食べても食べても、ぜんぜん減らない。
それもそのはず。普通の蕎麦屋の大盛りは1.5倍らしいが、『いい友』の大盛りは2倍。
それに普通盛りでも、その量は他の蕎麦屋よりも多いという。
おそらく大盛りにすると蕎麦の量は、300グラムか、それ以上になると思う。
トロロもすごい量なので、意識して多めに食べていかないと余ってしまかも。
というか、私の場合は余った。
しかし、美味しい山芋なので、全然困らない。
つけ汁で伸ばして、ツルルっといただく。
お漬物も秀逸。
パリパリとしていて美味い。
漬物は2切れ出て来たのだが、1切れ食べてから写真を撮り忘れていることに気付き、慌てて写真を撮った。
蕎麦湯はサラサラ系。
やっぱり蕎麦の締めはこいつでなくちゃだ。
それにしても、美味い蕎麦をこんなに腹いっぱい食べて、1,300円ってマジかよ。
ひょっとして、この店は儲ける気がないのか?
蕎麦屋ってボランティアとか、慈善事業でやるもんだったのか?
ホールスタッフは女性2人が担当していて、目配り気配りがばっちり。
このお2人は会計は行わず、あくまでホールでの注文取り、料理の配膳、後片付けのみに集中している。
じゃ、会計は誰がやるの? というと、それは厨房の中にいる別の女性スタッフさんが担当している。
スタッフの作業が細かく分担されていて、効率がよい。
客を次々にさばいていく。
店を出ると、大勢の客たちが順番待ちをしていた。
それから店内のは土禁なのでご注意を。
ごっちゃ蕎麦
翌週、ふたたび『いい友』へと向かう。
開店時刻の11時の10分前に到着。
え!? うそだろ!?
だって、まだ開店時刻の10分前だってのに、すでに駐車場は満車なんだぜ?
こいつら正気か・・・?
とにかく、開店時刻10分前なのにもかかわらず、店内はすでにお客さんでいっぱい。
店の入り口には、年配の上品なご夫婦が並んでいて、その傍らでおばあちゃんが野菜を売っている。
おばあちゃんと先のご夫婦は、すっかり打ち解けた様子で世間話をしていた。
なんでも、おばあちゃんの話によると、この店の「けんちん」がおすすめだとか。
それを聞いた奥さんが「そうそう! けんちん蕎麦を食べに来たのー!」と激しく同意する。
いわゆるハゲ同ってやつだ。
ご夫婦そろって「けんちん」狙いでの来店だという。
駐車場に1台のクルマが入って来た。
それを見た奥さんは、おばあちゃんとの話を中断し、私に声をかけてきた。
「あのぉ、お店のかたに名前を知らせておかないと・・・」
おっと、そんな順番待ちのシステムだったのね。
おとなしく並んでいるだけでは、いつまでたっても蕎麦にありつけないってことか。
お礼を言って、さっそくお店にスタッフさんに名前を伝えた。
おばあちゃんのお話によると、ここ「いい友」の大将の本業は大工さんで、蕎麦屋はあくまでサイド・ビジネス。
したがって「いい友」が営業するのは、週末の金土日のみ。
「とにかく、ここの夫婦は働き者で、頭がさがる」と、しきりに感心していた。
おばあちゃんは大将に勧められて、数年前から店の前で野菜を売るようになったのだとか。
15分ほど待っていると、先に並んでいたご夫婦が店内へと案内され、なぜか裏表が逆になっている暖簾の向こうへと消えていった。
さて、いよいよ次は私の番だ。
そして数分後、ついに私の順番が回ってきた。
2人掛けのテーブル席へと通される。
外で順番を待つ人たちのことを思うと、2人分のテーブル席を、ぼっちが占有してしまうのは、どうにも気が引ける。
しかし、店内に漂うカツオ節のいい香りを吸い込んだとたん、そんな殊勝な気持ちはどこかへと消え失せた。
ま、チャチャっと食べたらすぐに出ていくので、ここはご容赦いただこう。
おばあちゃんおススメの「けんちん」が猛烈に気になるが「ごっちゃそば」を注文する。
もちろん大盛りで。
前回の来店時から、この「ごっちゃそば」の存在がずっと気になっていた。
奇跡的に店内が空いたので写真を撮る。
奥の座敷は相変わらず満員御礼。
10分ほどで、ごっちゃそばが到着。
配膳をしてくれたスタッフさんから「お食事のあとのお箸は・・・」の説明が始まったので「ああ、お箸の袋に戻すんですよね?」と、先手を打つ。
すると、スタッフさんはニカっと笑顔でサムズ・アップ。
ではなく「はい。さようでございます」と深々と頭を下げられた。
なんて上品な人なんだ、と感心しつつ、説明を遮ってしまったことを少し悔やんだ。
さてさて、ごっちゃ蕎麦。
中央には大根おろし。そしてそのてっぺんにはワサビ。
刻み海苔も山盛り。
サラダに胡麻のドレッシング。
胡麻ドレが蕎麦汁に少しでも混ざるのは嫌だ。
なのでこのサラダを、まっさきにやっつけた。
トロロ。
相変わらず山芋の風味がすばらしい。
蕎麦には珍しいキュウリの組み合わせ。
シャキシャキとした歯ごたえと、青い香りが新蕎麦の風味をいっそう引き立てる。
蕎麦にキュウリって意外とアリだな。
鴨肉は燻製。
おそらく、業スーのものだろう。
どこの物だろうが、鴨肉が入っているってことは単純に嬉しい。
しかし、代わりに天カスとかだったら、より嬉しかったかも。
蕎麦は硬めの仕上がり。
いい香り。
カマボコってやつは、どこにいても邪魔にならない。
どんな環境でも、誰とでも、周りのみんなと上手く馴染める器用なやつ。
見習わなくては。
ごっちゃ蕎麦には、蕎麦汁はあらかじめ掛けられている。
ぶっかけ蕎麦ではなく、ぶっかけられ蕎麦。
あらかじめ蕎麦汁がかけられた蕎麦は、どうしても味に起伏が少なくて、単調になりがち。
盛り上がりに欠ける。
いや、これもちゃんと美味いんだけれども。
できれば蕎麦汁は、別の器で提供してほしかった。
木製のレンゲが添えられていた。
そういえば、この「ごっちゃ蕎麦」は、いわゆるぶっかけスタイルの蕎麦だから、蕎麦湯は付いてこないんだな。
大盛りは相変わらずのものすごい量。
まるで二郎系。
美味い蕎麦をこんなにも腹いっぱいに食べられるなんて、まるで夢の国にでもいるかのようだ。
それでいて値段もお手頃となると、この店が流行るのもよく分かる。
美味しいお漬物。
このキュウリは、皮が厚くて硬くて、おまけに見た目はシワシワのイボイボ。
これはそういう品種のキュウリで、サラダなどのように、生で食べるのにはまったく向いていない。
ところがこのキュウリ、漬け物にすることで、厚く固い皮がパリパリとした独特の食感を生み出すようになる。
キュウリのキューちゃんなども、このタイプのキュウリが使われている。
使い終えた割り箸を、袋に戻す。
ホールスタッフの2人は、キビキビと手際よく仕事をこなしているが、正午が近くにつれ、順番待ちの行列は長くなるばかり。
会計の際に厨房に見えた大将に「ごちそうさま」を伝えて店を出る。
駐車場を埋め尽くすクルマのナンバープレートを見ると、他県からGoToしてきたお客さんも多いようだ。
さすがは常陸太田市民も認める蕎麦屋。
納得の美味い蕎麦だった。
いい友の基本情報
いい友の場所はこちら
駐車場は10~14台分くらいかな。
一応、最寄りの駅は水郡線常陸太田駅だけど、徒歩1時間なので歩くのはキツイ。
いい友の基本データ
住 所
〒313-0024 茨城県常陸太田市高貫町1446−4
電 話
なし
営業時間
11時00分~15時00分
★ 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため14:00までの営業
定 休 日
月曜日~木曜日
いい友のメニュー
※ 価格は2020年のもの。
税込み価格です。
冷たいお蕎麦・うどん
かけそば・うどん
700円
やさい天ぷらかけそば・うどん
1,000円
ぶっかけそば・うどん
1,000円
たぬきそば・うどん
800円
ワカメそば・うどん
800円
あつあつそば
700円
※ 大盛りは300円プラスで2人前です。
温かいお蕎麦・うどん
もりそば・うどん
700円
野菜天ぷらそば・うどん
1,000円
三品(納豆、とろろ、大根おろし)そば・うどん
1,000円
とろろ(生野菜付き)そば・うどん
1,000円
ぶっかけそば・うどん
1,000円
ごっちゃそば・うどん
1,000円
冷やしなむきそば・うどん
800円
冷やしワカメそば・うどん
800円
※ 大盛りは300円プラスで2人前です。